知らない人が見たら、おしゃれなカフェの入口だと思うかもしれません。静岡県静岡市六番町、白いのれんの掛かるここが、「鍼灸・指圧 六番町ぬちぐすい」です。


新卒で就職した東京のアパレル企業を辞め、資格を取得して出身地の静岡にUターン。その後施術院を開いた篠崎さんがたどってきた道、鍼灸への思いもお聞きしてきました。



養護施設やアパレル業界、働くことを突き詰めたら「自分はここではない」と思うように。



大学は東京に進学。友人に誘われて児童養護施設でアルバイトをしていた篠崎さん。ある時、規定の職員数に不足が生じ、誘われるままに大学を一年休学して住み込みで働くことに。


「養護施設の仕事はやりがいがありましたが、20歳そこそこの人間がやっていい仕事ではないと、真面目に思い込んでしまって。

卒業後の就職は人の命を預かるような重い仕事を避け、東京でアパレル業界に。洋服は好きでしたが、正直養護施設の反動で決めてしまったところはありましたね」。


アパレル企業では「生産管理」を担当。デザインが決まったら仕様書を作成し、生地や糸などの資材を指定し縫製工場に依頼する仕事です。


「同世代の女の子が多くて楽しいし、人間関係も悪くないんですけど。洋服が好きで好きでしょうがなくて入社した人ばかりで、毎日終電でも嬉々として働いている。

それに比べ自分はファッション関連ならライトに仕事ができるのではという理由。そんな中途半端な気持ちでファッションに関わってはいけない、本当に好きなことを仕事にしようと気づいたんです」。



何か資格を取ろう。自信がなかったから「資格」という形で認めてほしかった。



何か資格を取ろうと考え始めた篠崎さん。養護施設で子どもと接していたので保育士はどうか。でも自分はどうやらチームで動くよりも1人で働くほうがあっていそう。

「自然志向もあり東洋医学にも興味があったので、鍼灸師を目指すことに。人のためになる仕事をしたいと思っていました」。


どうして資格を取ろうと思ったのでしょうか。

自分に自信がなかったから、認めてもらいたいという思いがあったんじゃないかな。振り返ると、そんな気持ちだったかもしれませんね」。


アパレルの仕事を辞めたのが27歳の時。

資格取得のためには専門学校で3年勉強して国家試験を受ける必要がありました。授業料のため、静岡に戻り実家で暮らすことで家賃を節約し、1年間昼夜掛け持ちでバイト。並行して入学試験の準備も。高校数学の教科書も引っ張り出して勉強しました。


「通っていた高校の先生にも相談し、過去問からこの辺りを集中して学習したらいいよとアドバイスを受け、時間を見つけては勉強していました。

仕事辞めて静岡に帰ると報告したら、最初、父親は怒っていましたね。こっちも、怒られても引きませんでしたけどね」。


無事入学試験に合格し、東京の専門学校に入学したのが29歳。昼間は鍼灸院に住み込みで働きながら、夜間の学校に3年。


「信用金庫からお金も借りたし、区の女性のための助成金も活用しました。

苦労というのか、働きながらですからいろいろありました。でももう忘れていくくらいの方がいいですよ」。と静かに笑う篠崎さん。



静岡で開業。軌道に乗るまでは、本当にいろんなことがありました。



東京の専門学校を卒業し国家試験を受け、31歳の時、はり師 きゅう師 指圧マッサージ師と、3つの国家資格を取得。

そのまま東京で、鍼灸院や接骨院に勤めて経験を積みました。


「知り合った先生たちはみな患者さんが多く来院し収入が安定していたので、自分の将来にも不安はありませんでした」。

これが甘かったと後々知ることになったそう。


35歳で静岡へ帰って、実家で施術院を開業。1人立ちです。

「経験を積んできたと思っていましたが、今までは修行先の先生たちの指導に沿った施術をやっていたわけで、はたと、全部自分でやることの重さに気付きました。そう思うと鍼を打つのも怖いと思えてきたこともあります」。


始めたばかりの頃は患者さんも少なく、大手ホテルでの常駐マッサージの仕事も経験しました。

その仕事が決まる前に訪ねた、マッサージを派遣している鍼灸院で『資格なんかいらない、女性なら誰でもいい』と言われ愕然としたこともあったそう。

「そういう人が鍼灸・マッサージの格を自ら下げているんです」と鋭い指摘。


「その頃は、東京での勉強会に積極的に参加し、貪欲に新しい知識や用具を取り入れていました。無給で施術の手伝いをしたり。経験が少ない分、知識で自信を裏打ちしたかったのかもしれませんね」。



たどりついたのは、「人と比べなくてもいい。自分らしい施術を」という境地。



篠崎さんが鍼灸師になった頃、コンビニエントなもみほぐしも出始め、鍼もカジュアルに。アスリートがスポーツトレーナーとして、さらに美容鍼と変化の時期に重なっています。


今までは年配の人がかかるものと固定観念があった鍼灸でしたが、自然志向の人も増え、静岡でも興味を持つ人が増えてきました。


「身体全体を整えることが鍼灸の役割なので、ダイエット、美容鍼と個別の効果を打ち出すことはしたくないという気持ちが自分にはありました。身体をめぐる気を整えることでそれらの効果も得られることは昔から知られていたことですので、そういう目的の方を否定しませんが。」


自分の信条に正直に対応していると、それを理解してくれる人が定期的に通ってくれるようになっていきました。

徐々に来訪者が増え、ホームページを見て訪れてくれる人も現れ始めます。


施術院も改装。

快適な施術着をオリジナルでつくろうと、アパレル業界の友人に相談し型紙をつくり生地も選び、と順調な日々でしたが、

「夫が脳出血で倒れ介護が必要に」。

仕事を縮小しなければいけなくなってしまいました。


介護を行いながらの生活の中で、当初は困惑し落ち込むこともあったそうですが、私は私のスタンスでやっていけばいいと、次第に心も整ってきたと篠崎さん。


「理想を追い求めるのはやめよう。私にできることを真摯に。他の人に向いていることは、その人に任せようと思ったらラクになりました。

鍼の考え方は幅広く、これに効くということを繊細に追求する人もいますが、アバウトなくらいでいい。私はその人が心地よくなることを第一に置いていて、そうすることで身体もかわってきます」。


「鍼灸は病気を治すのではなく、その人の弱い部分を補って免疫力を上げて病気になりにくくすること。」。

「究極の目的は、ここ来なくても自分で自分の気をコントロールできるような身体になってもらうことかもしれません」。



やっぱり鍼灸が好き。「好き」があっての苦労は乗り越えられます。



「今日、こうして話していると、自分はちゃんと好きなことを仕事にできていると改めて思いました」。


今働くことで悩んでいる人たちには、

「嫌なことは仕事にしないほうがいい。身体にもあらわれます。興味が持てないことをやれっていうのは無理。


私も嫌なことはいっぱいあったはずですけど、好きがあっての嫌なことは我慢できるし、自分で何とかできるんですよね。

自分の想いや情熱、時には衝動も大事にして。

人のために…ってことだけ考えているのは、自分に対する虐待ともいえます。


私自身が介護をしているので、自分を置いといてって考えは苦しいだけ。

自分を大事にしようと気持ちを切り替えたら、詰まっていたものが流れ出したように、ちょっとだけ前向きになれた気がします。

もし皆さんにも好きなこと、目指したいことがあったら、自分の気持ちを信じて行動してみてください」。


2023年1月18日公開



六番町 ぬちぐすい

静岡市葵区六番町1-9

お休み:月曜・祝祭日(月1回 日曜の休みあり)

tel:054-221-5489

・鍼灸・指圧(45分)5500円 ・追加(20分)2000円 ※45分の施術に追加できます

火曜〜土曜 9:00~17:00(最終受付)

日曜   9:00~11:00(最終受付)

ぬちぐすいサイト
 

ぬちぐすいとは沖縄の言葉で「命の薬」。患者さんのぬちぐすいでありたいと名付けました。鍼灸・指圧は転ばぬ先の杖。病気にかかりにくい身体づくり、体質改善などに効果があります。定期的な施術で、疾病予防や術後管理、健康保持を。鍼は使い捨ての鍼を使用。毛先ほどの細さで痛みもなく、お灸も熱くなりすぎずあともつきません。


<執筆>

DOMO+編集部

アルバイト・パートお役立ち情報を収集・配信しています。現在就業中の方にはお仕事ライフがもっと充実したものになるように、これからシゴト探しをする方には自分にぴったりのお仕事に出会えるよう情報提供でサポートします。